フィリピン向け multibook 操作ガイド

フィリピンでは、会計システムを利用する際に CAS(Computerized Accounting System) の登録が義務付けられています。2021 年の RMC No. 5‑2021 で登録手続きが簡素化されると同時に、登録に必要な帳票や帳簿の出力要件が示されました。multibook では、これらの要件を満たすための各種モジュールを用意しており、請求書・領収書の出力、ジャーナル一覧や総勘定元帳の出力、源泉税関連帳票の作成、BIR(内国歳入庁)提出用ファイルの生成などに対応しています。

※ 2025 年以降順次導入される EIS(Electronic Invoicing/Receipting System) にも対応予定です。 

CAS 対応機能の全体像

CAS 登録に必要な要件と、multibook の対応モジュールを簡単に整理すると以下のようになります。詳細は後続の章で解説しますが、全体像を把握する際の参考にしてください。

要件分類

主な要件

対応する multibook モジュール

PH CAS 要件

受領証・請求書に必要項目の表示

ACPH110 Invoice, ACPH120 Official Receipt など

各種帳簿出力

ジャーナル一覧・総勘定元帳・仕訳帳・残高試算表など

ACPH210 BIR Loose‑leaf Book of Accounts, ACGL420 Sales/Purchase Journal List, ACGL620 財務諸表出力

源泉税関係

源泉徴収税証明書の出力

ACPH250 BIR Form 2307, ACPH270 BIR Form 2306

税務申告

拡大源泉税申告書・支援機能

ACPH220 BIR Interface File (1601EQ)ACPH230 BIR Interface File (1604E)ACPH240 BIR Interface File (2550Q)ACAR110 借入/債権消込入力

商習慣

小切手出力、他通貨会計

ACPH260 Check Printing (PH)ACC3620 財務諸表 3rd

上のように、multibook にはフィリピンで求められる帳票や処理を網羅する機能が用意されています。本ガイドでは特に利用頻度の高い Invoice, Official Receipt, BIR Loose‑leaf Book of Accounts, BIR Form 2306 に絞って操作手順を解説します。

ACPH110 Invoice – 請求書出力

概要

ACPH110 Invoice は、会計仕訳データを基にフィリピン向けの請求書を出力する機能です。発行元(Seller)の登録名・住所・TIN、請求書番号やシリーズ番号、VAT 区分ごとの売上額など、CAS 要件で求められる情報を帳票上に自動で反映します。また、出力形式は PDF または Excel から選択できます。

メニューの起動

会計メニューの Country Specific Function → Philippines から ACPH110 Invoice を選択します。メニュー位置は下図の赤枠に示されています。


操作手順

  1. 出力条件の指定 — 会社コードが初期表示されています。必要に応じて範囲を指定できる項目は空白のままでも構いません。主な検索条件は次の通りです。
  2. Doc No./Invoice No./Posting Date/Doc Date/Doc Type:それぞれ範囲指定が可能です。
  3. Biz Partner:特定のビジネスパートナーに限定して出力する場合に指定します。
  4. Currency:通貨を指定します。通常は空白でも問題ありません。
  5. Cleared:開いている明細のみを対象にする場合は「Open」、全件対象とする場合は「All」を選びます。
  6. Number of Copies:出力する部数を指定します(必須)。
  7. Title:帳票タイトルに表示する文言を入力します(必須)。
  8. VATable Tax/VAT‑Exempt Tax/Zero Rated Tax:税コードを指定すると、その税区分の売上明細のみ出力されます(任意)。
  9. Invoice Date:請求書の日付として Posting Date または Doc Date のどちらを利用するか選択します。

出力条件入力画面は次の通りです。【上記項目を参考に入力し、「Execute」ボタンをクリックしてください】


  1. 各項目の意味を確認 — 上記フォームに入力する項目の役割は以下の通りです。多くの項目は任意ですが、会社コード・Number of Copies・Title・Invoice Dateは必須です。

項目

説明

必須/任意

備考

Company

出力対象の会社コード。ログインユーザーの会社が初期表示されます。

必須

 

Doc No./Invoice No./Posting Date/Doc Date/Doc Type

それぞれの範囲を指定して絞り込みます。

任意

範囲指定が可能

Biz Partner

出力対象の取引先を指定します。

任意

 

Currency

通貨を指定します。

任意

 

Cleared

Open(未消込伝票)または All(すべて)を選びます。

必須

 

Number of Copies

出力する部数。

必須

 

Title

帳票タイトル欄に表示する文字列。

必須

 

VATable Tax/VAT‑Exempt Tax/Zero Rated Tax

税コードを指定することで、対象税区分のみを出力します。

任意

 

Invoice Date

請求書の日付として Posting DateDoc Date を選択します。

必須

 


  1. 帳票の出力 — 検索結果一覧から出力したい文書にチェックを付け、画面右上の Export ボタンを押します。出力形式は PDF または Excel を選択でき、必要に応じて次のチェックボックスを付けます。
  2. Print “REPRINT”:請求書が再発行であることを明記したい場合にチェックします。
  3. Print “THIS DOCUMENT IS NOT VALID FOR CLAIM OF INPUT TAX”:サブレシートや補助請求書で入力税の控除対象とならない旨を明記する場合にチェックします。

選択した伝票の一覧を確認してから出力します。複数伝票を選択した場合は、Zip ファイルとしてまとめてダウンロードされます。


補足

  • 生成される請求書には、会社マスター(MACM110)に登録された会社名、住所、VAT 登録番号などが自動で印字されます。請求書番号は 伝票タイプコード+採番単位+自動採番番号 から構成され、採番範囲は管理メニューで設定します。
  • VATable/VAT‑Exempt/Zero Rated Tax の項目に税コードを指定すると、混合取引の場合でも税区分ごとに売上額を分割して表示します。
  • Excel 形式で出力した請求書は、セルが固定されたテンプレートであり編集には適していません。編集用途には PDF 出力をご利用ください。

ACPH120 Official Receipt – 領収書出力

概要

ACPH120 Official Receipt は、売上入金に対して領収書を出力する機能です。基本的な操作は請求書出力と同じですが、領収書番号や入金日などの情報が異なります。また、タイトルや税区分ごとの金額表示なども編集できます。

メニューの起動

会計メニューの Country Specific Function → Philippines から ACPH120 Official Receipt を選択します。メニュー内の配置は下図の赤枠をご参照ください。


操作手順

  1. 出力条件の指定 — 請求書と同様に、会社コードや伝票番号、日付範囲、取引先、通貨などを入力します。領収書の場合も部数とタイトルは必須です。検索条件画面は下記の通りです。




  1. 項目の確認 — 入力項目の意味や必須・任意は請求書とほぼ同じです。唯一の違いとして、領収書は入金伝票を対象とするため、Doc Type の指定や日付範囲が入金日で検索されます。



  1. 帳票の出力 — 検索後の一覧から対象を選択し、PDF または Excel で出力します。必要に応じて「REPRINT」や「THIS DOCUMENT IS NOT VALID FOR CLAIM OF INPUT TAX」を選択します。操作画面は下図の通りです。



補足

  • 領収書も請求書と同様、連番は伝票タイプや採番単位から構成されます。領収書番号の採番範囲を適切に管理してください。
  • Excel 形式で出力すると、取引ごとに 1 シートずつ別ファイルが生成されます。多数の領収書を出力する場合は Zip 形式でダウンロードされます。

ACPH210 BIR Loose‑leaf Book of Accounts – ジャーナル一覧・総勘定元帳出力

概要

フィリピンの BIR では、電子システムを利用する会社に対してジャーナル一覧と総勘定元帳を印刷・提出することを求めています。ACPH210 BIR Loose‑leaf Book of Accounts は、この要件に対応した帳票出力機能です。年度・月・帳簿区分(Normal/Ledger 1/Ledger 2)を指定して、ジャーナル一覧または総勘定元帳を Excel 形式で出力します。

メニューの起動

会計メニューの Country Specific Function → Philippines から ACPH210 BIR Loose‑leaf Book of Accounts を選択します。下図の赤枠が該当機能です。


操作手順

  1. 出力条件の指定 — 次の項目を指定します。
  2. Company:出力対象の会社コード(必須)
  3. Year/Month:対象会計期間(必須)
  4. Ledger:Normal(通常仕訳帳)・Ledger 1・Ledger 2 から選択(必須)
  5. Output:Journal List(ジャーナル一覧)または General Ledger(総勘定元帳)を選択(必須)

入力画面と項目説明は以下の通りです。条件を入力後、右上の Execute ボタンを押して出力します。



  1. 出力内容の確認 — 出力形式は Excel で、指定した帳簿区分・期間の仕訳一覧または総勘定元帳が出力されます。ジャーナル一覧では仕訳日・伝票番号・借方/貸方科目・金額・ビジネスパートナー名などが行単位で表示されます。総勘定元帳では科目別に当期残高や借方・貸方金額がまとめられます。サンプルは下図の通りです。
  2. Journal List の例


  1. General Ledger の例


補足

  • 出力された Excel ファイルは、BIR へ提出するために印刷し製本する用途を想定しています。レイアウトを変更すると BIR への申請時に指摘を受ける可能性があるため、編集は最小限に留めてください。
  • 各帳簿区分 (Ledger 1, Ledger 2) の区別は会社ごとに異なる運用をしているケースがあります。使用していない区分がある場合は Normal を選択してください。

ACPH270 BIR Form 2306 – 最終源泉税証明書

概要

ACPH270 BIR Form 2306 は、外国企業との取引において支払者が支払う Final Withholding Tax(最終源泉税) の証明書(BIR Form 2306)を作成・出力する機能です。取引通貨が PHP 以外の場合でも、システムが PHP に換算して金額を計算します。伝票単位で 1 枚の証明書を発行する設計になっており、ATC Code(源泉税コード)ごとに設定した源泉税勘定科目から対象伝票を抽出します。

BIR Form 2306 の仕組み

下図は最終源泉税の流れを説明した図です。買い手(Payer)が支払額から源泉税を差し引き、税務当局に納付する一方、売り手(Payee)には差し引かれた支払額と証明書を渡します。


概要ポイント

以下の点を押さえておくと操作がスムーズです。



  • 金額はすべて PHP で出力:取引通貨が PHP でない場合でも、取引通貨金額を PHP に換算して計算します。会社通貨が PHP でも、会社通貨額は使用しません。
  • 伝票単位で帳票を出力:複数件を選択した場合は、各伝票につき 1 ファイルが作成され、Zip 形式でまとめてダウンロードされます。
  • ATC Code ごとに勘定科目を設定:源泉税の税率や計算方法は ATC Code に紐付くため、事前に勘定科目のタイプを “WHD Account” に設定しておく必要があります。
  • 税基準額は仕訳のspare num1 に登録:源泉税の元となる金額を各仕訳の補助列に記録する運用が必要です。

操作手順

  1. 検索条件の入力 — ACPH270 BIR Form 2306 画面で、会社と期間(Year from/Year to、Month from/Month to)を指定し、源泉税勘定科目、取引先(任意)、個人カテゴリ(任意)、為替レートタイプを入力して Search ボタンを押します。検索条件画面は以下の通りです。


項目の詳細は次の通りです。 - Company:対象会社を選択(必須) - Period:証明書の対象期間を指定(必須) - Withholding Tax Account:源泉税勘定科目を指定(必須)。G/L Account Type は “WHD Account” に設定します。 - Biz Partner:特定の取引先だけを対象にする場合に入力(任意) - Individual Biz Partner Category:個人取引先をカテゴリで絞り込む場合に入力(任意) - Exchange Rate Type:PHP への換算レートタイプを指定(必須)


  1. 対象伝票の選択と出力 — 検索結果の一覧から証明書を作成する伝票にチェックを付け、Export ボタンを押します。複数の伝票を選択した場合は Zip ファイルでダウンロードされます。



  1. 帳票内容の確認 — 出力されたファイルは BIR のフォーマットに沿った PDF です。以下はサンプルの一部です。指定した期間や取引先の情報、支払金額、源泉税額、ATC Code などが自動で転記されます。



補足

  • 取引通貨が PHP 以外の場合、Exchange Rate Type で指定した為替レートで PHP に換算されます。レートマスターに登録がない場合はエラーになりますので、事前に登録を確認してください。
  • 源泉税の対象となる仕訳には、税額計算の基礎となる金額を spare num1 に登録します。登録がないと証明書にはゼロとして出力されます。
  • 会社の支払い業務(買い手側)で使用する証明書であり、売り手側で Form 2306 を管理するためには別途管理方法が必要です。

EIS(Electronic Invoicing/Receipting System)対応予定

2025 年 3 月 14 日から、フィリピンでは BIR が電子請求システム(EIS)の導入を開始します。対象企業は 2026 年 3 月 14 日までに完全稼働することが求められており、その後他企業へ適用が拡大される予定です。EIS の目的は、課税の透明性向上、不正防止、監査業務の効率化にあります。

EIS の概要


multibook のソリューション

multibook では、EIS への対応として以下のようなワークフローを計画しています。請求書を登録すると、自動的に EIS インタフェースへ送信し、BIR の審査状況を取り込みます。請求書のメール送信機能や源泉税関連の帳票出力と組み合わせることで、フィリピンでの請求業務を効率化します。


リリーススケジュール

EIS 対応機能は 2025 年 7 月~11 月にかけて設計・開発・統合テストを行い、同年 11 月にリリースする計画です。以下は開発スケジュールの概略です。


その他の関連機能

  • ACPH220/ACPH230/ACPH240 BIR Interface File — 拡大源泉税や VAT 申告用のデータを BIR 提出形式で出力します。対象となる仕訳を検索し、XML 形式または CSV 形式で出力します。操作は本マニュアルと同様に条件を指定して検索・出力する流れです。
  • ACPH250 BIR Form 2307 — 源泉徴収税証明書(Expanded Withholding Tax)の出力機能です。対象となる勘定科目と期間を指定して出力します。Form 2306 と異なり、支払者ではなく受取者側の証明書です。
  • ACGL420 Sales/Purchase Journal List — 売上・仕入仕訳一覧を出力する機能で、VAT 申告の基礎資料として活用できます。
  • ACPH260 Check Printing (PH) — 現地の銀行フォーマットに対応した小切手出力機能です。小切手発行時に金額を自動でテキスト化し、印刷用フォーマットに反映します。

操作上の注意

  • 各メニューで会社コードや期間を指定する際は、誤った条件で出力しないよう確認してください。特に源泉税関連の帳票は税務申告に直結するため、科目設定やレート設定が正しいか事前に点検することを推奨します。
  • 一覧画面で複数のレコードを選択して出力すると、Zip ファイルとしてまとめてダウンロードされます。ダウンロード後は各ファイルを解凍してご利用ください。
  • PDF 出力は帳票フォーマットが固定されているため編集には適していません。レイアウトを変更したい場合はまず Excel 形式で出力し、必要な加工を行うとよいでしょう。

まとめ

本ガイドでは、フィリピンの CAS 要件に対応した multibook の主要機能について、概要と操作手順を解説しました。請求書や領収書の発行、ジャーナル一覧や総勘定元帳の出力、源泉税証明書の作成など、フィリピンでの会計実務をサポートする機能が豊富に用意されています。今後は EIS 対応機能のリリースにより、BIR との連携がさらに強化される予定です。実際の運用に際しては、会社ごとの運用ルールや税務要件を踏まえ、必要なマスター設定や事前準備を整えた上で各機能をご活用ください。